8/30発売★狂気な倫理「愚か」で「不可解」で「無価値」とされる生の肯定【著者インタビュー】

2022年8月30日に『狂気な倫理–「愚か」で「不可解」で「無価値」とされる生の肯定』が出版されます。

310ページとボリュームのある当著書。2019年末に企画されましたが、その後企画が没になったりと紆余曲折あり、2022年8月にめでたく世に送り出されることとなったそうです。

そんな難産ながらようやく誕生した当著書について、著者のおひとりであり、福岡女子大学講師。歴史学、『奇譚クラブ』を主な史料として、日本の異性間サドマゾヒズム・SMを研究している河原梓水さんにお話を伺いました。

この本はどのような方に向けて書かれているのでしょうか?

「敵」と「味方」双方に向けて書かれていますが、「味方」のほうについて。本書のメインタイトルは『狂気な倫理』ですが、本書における倫理とは倫理学や道徳、例えば、絶対的・普遍的に善であるあり方のことではありません(倫理(ethic)の語源であるギリシア語のエートス(ethos)には、かなり広い意味があります)。詳しいことは端折りますが、本書における倫理とは、正しい人の生き方を追求するのではなく、社会一般ではよくないものとされ、否定/治療/矯正すべきものとされるような人のありかたや生きざまを肯定的に指す言葉として用いています。本書の副題にあるように、現代社会には、しばしばある種の人々が「愚か」で、「不可解」、あるいは「異常」で、「無価値」だと思い込まれてしまう状況があります。しかも、その状況を「支援」や「回復」、「ケア」、「尊厳」、「共生」といった前向きな言葉や制度で覆い隠してしまう現状があります。多様性が叫ばれ始めてしばらくたちましたが、多様性の範囲から暗黙の前提として除外されているような生きざま・あり方について心当たりがある方に、ぜひ本書を手にとっていただきたいです。

なお、SM好きの皆さまは、ずっとスクールカースト上位の人気者として過ごし、そのまま女王様やご主人様にスライドしたという方もいないわけではないでしょうが、多くの方はそうではないのではないかと思っています。なかなか「普通」になじめなかったり、育った環境が「普通」ではなかったり、その他、とにかく色々あって、社会との付き合い方において、それなりに苦労された方も多いのではないでしょうか。(かくいう私も「普通」には育ちませんでした)。本書には、こうした方々の琴線に触れる内容がたくさん含まれていると思います。

変態全般にぜひお届けしたいと思って個人的には編集しました。

内容はなんだか学術的で難しそうですね。一般の変態でも理解できるのでしょうか?

学術書ではありますが、歴史学、哲学、社会学、生命倫理、美学など、さまざまな分野の論者で構成されているため、専門外の読者を想定してなるべくわかりやすくなるように努力しました。

また、執筆者はほぼ全員が研究者ですが、そのテーマに関する当事者であったり、社会人経験を通じて研究に向き合っていたりする方も多いです。研究スタイルが型破りな方もいます。そのため、ガチガチの学術書という感じではありません。章ごとに硬軟はありますが、一般の方にも十分お読みいただけるものになったと思います。

河原さんが読者にいちばん伝えたいことを教えてください!

「あとがき」に書きましたが、本書は、愚かで不可解で無価値な生を一貫して肯定する立ち場を取っています。しかしそれは、「こんな人がいてもいいよね」、「異なる人々を尊重しましょう」といった主張をしようとしているわけではありません。そのように「寛容」を示そうとする、他ならぬお前はいったい何様なのかということを喉笛にぐさっとつきつけてやろう、という気持ちです(なので装幀も、殺傷能力の高そうな槍にしてもらいました)

そもそも、各章でレベルの差はあるとはいえ、その生をひとつでも肯定しきった際には、現在の社会秩序が転覆するくらいのものを肯定しようとしているつもりです。そのように受け止めていただければ大変うれしく思います。

すべての変態に向けて書かれた当著書は、予約受付中です♪

著書情報

タイトル狂気な倫理
「愚か」で「不可解」で「無価値」とされる生の肯定
著者小西 真理子 編著
河原 梓水 編著
ジャンル哲学 > 倫理学
出版年月日2022/08/30
ISBN9784771036550
判型・ページ数A5・310ページ
定価2,970円
出版元晃洋書房

インタビュイー

河原梓水さん:@kawahara_azumi